大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和32年(ワ)8602号 判決

平和相互銀行

事実

原告は、被告株式会社平和相互銀行が訴外篠崎健一に対する強制執行として差し押えた本件物件の所有者であるから、被告が本件物件に対してなした右強制執行の排除を請求すると述べ、被告はこれを否認した。

理由

被告株式会社平和相互銀行が公証人作成の執行力ある公正証書正本に基き、訴外篠崎健一に対する強制執行として、昭和三二年一〇月二一日本件物件を差し押えたことは当事者間に争がない。

そこで右差し押えられた本件物件が原告の所有にかかるものであるかどうかについて考えるのに、証拠を総合すると、訴外篠崎健一は昭和三〇年一〇月頃から訴外株式会社二幸製作所の常務取締役に就任していたのであるが、昭和三二年頃同会社が訴外株式会社実業の相談社に約束手形を振り出して右会社から金十九万二千円を借り受けたについて連帯保証人となつたところ、右約束手形が支払われなかつたため前記消費貸借契約及び連帯保証契約について訴外株式会社実業の相談社から強制執行を受けたこと、その後昭和三二年七月五日訴外株式会社実業の相談社と訴外篠崎健一との間に、篠崎から実業の相談社に対して金五万円を支払えばその余の債務に関する篠崎の連帯保証責任を免除する旨の示談が成立し、訴外篠崎健一は右会社に対し二回に分けて金五万円を支払つたこと、篠崎は右の支払をするについてその資金を原告から借り入れたほか、訴外株式会社二幸製作所が昭和三二年三、四月頃から破産状態に陥つたため、同会社よりその常務取締役としての報酬を受けることができなくなり、原告から時折生活費に充てるべき金員を借り受けていたところ、同年七月頃にはその金額が約五万円になつたこと、原告は訴外篠崎健一の長女の夫であるが、親族間の金銭貸借についてはとかく後で紛議を生じ易いものであるから公正証書によつて明確にして置くとともに右貸金債権について担保を提供するよう篠崎健一に要望したところから、昭和三二年八月一二日付金銭消費貸借公正証書によつて篠崎と原告との間に譲渡担保契約及び使用貸借契約が締結されたことが認められる。

ところで右に認定した譲渡担保契約及び使用貸借契約は、その当事者が岳父と婿という近親関係にあるものであること、その目的物がすべて担保提供者である訴外篠崎の家財道具とみられること、殊にその締結の日時が被告銀行の篠崎に対する本件強制執行の債務名義となつた公正証書に執行文の付与された昭和三二年八月六日の直後である同年同月十二日であること等に鑑みると、篠崎健一と原告とが通謀して締結したものではないかとの疑をさしはさむ余地がなくもないけれども、この点に関しては被告銀行から何らの主張もなされていないし、またその確証もない。従つて以上認定した事実からすれば、原告は訴外篠崎健一から本件物件の所有権を譲渡担保契約に基いて取得し、当時その対抗要件を具備したものといわざるを得ないのである。

よつて被告が本件物件を差し押えた当時、その所有権が既に原告に譲渡されていたことを原因として、本件物件に対する被告の強制執行の排除を求める原告の請求は正当であるとしてこれを認容した。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例